大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1145号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人黒木盈の上告趣意第一点について。

被告人の本件行為当時の菓子類の小売業者販売価格の統制額は、昭和二二年九月二八日物価庁告示第八〇四号によれば、飴菓子については正味一〇〇匁につき金四〇円、キャラメルについては容器つき一個(正味一〇匁につき)金五円、その他の菓子及び菓子類似品については、正味一〇〇匁につき金五円と指定されているのであるが、右告示にいわゆる「その他の菓子」とは、同告示別表(規格表)に掲げる規格に該当しない菓子をいい(同告示第二販売条件その他の六参照)、同告示別表に掲げる規格に該当する菓子とは食糧管理法、並に砂糖需給調整規則に違反しない原料を使用し、且同告示規格表に合致する割合で配合製造したものをいい、食糧管理法並びに砂糖需給調整規則に違反した原料を使用して製造したものは同告示別表に掲げる規格に該当しないものとしていわゆる「その他の菓子」にあたるものと解すべきである。そして本件甘藷飴が食糧管理法並びに砂糖需給調整規則に違反しない原料を使用してこれを製造したものであることは原判決の認定しないところであるのみならず、原判決が確定したところは「被告人は甘藷飴八貫目を物価庁告示指定の統制額より合計約金二二四〇円を超過する対価である代金合計約金二六四〇円で売り捌こうとして所持していた」というのであるから、右にいわゆる物価庁告示の統制額とは甘藷飴八貫目につき合計約四〇〇円一〇〇匁につき約五円としていること明らかであり、右は正に前記告示の「その他の菓子」の一〇〇匁の統制額である。してみれば原判決は、右甘藷飴を右告示の「その他の菓子」として判示したものであること明らかであって、原判決が右甘藷飴が物価庁告示の如何なる菓子の部類に属するかを明確にしなかった違法があるとの論旨は理由がない。

同第二点について。

昭和二二年四月二六日物価庁告示第一九九号、菓子類の販売価格の統制額指定の件は、昭和二二年九月二八日物価庁告示第八〇四号により廃止され、菓子類の統制額は右告示第八〇四号により新たに指定されて居り、従って被告人の本件行為当時には右告示第八〇四号が施行されていたのに拘らず、原判決がその法令適用の部に右既に廃止された前記告示第一九九号を引用していることは所論のとおりである。しかし原判決が確定した事実は被告人が統制額を超過する価額で甘藷を販売する目的でこれを所持していたという物価統制令第一三条ノ二違反の事実であって、右事実を同条違反の罪に問擬する場合には、その行為の当時その物資に統制額が存すればよいので、その統制額を指定した告示の適用を判決において示す必要はない。そして被告人の本件犯行当時いわゆる甘藷飴については、前記昭和二二年九月二八日物価庁告示第八〇四号による統制額が存した(しかも同告示による「飴菓子」「キャラメル」「その他の菓子及び菓子類似品」の統制額は原判決が誤り引用した昭和二二年四月二六日物価庁告示第一九九条による統制額と全く同一である。)のであるから、原判決が被告人の所為に物価統制令第一三ノ二、第一項第三条第三五条を適用処断したのは正当であって違法はない。よって論旨は理由がない。

同第三点について。

昭和二五年八月一二日物価庁告示第四七〇号によって、飴菓子類及び「その他の菓子」のうちの飴菓子に関する販売価格の統制額が廃止されたことは所論のとおりであるが、犯罪行為の当時有効に存在した物価統制令に基く販売価格の統制額指定の告示が犯罪後に廃止され統制額がなくなっても、これを以って旧刑訴第三六三条第二号にいわゆる「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ」とはいえないことは昭和二三年(れ)第八〇〇号同二五年一〇月一一日大法廷判決の示すところであるから、被告人に対して「刑ノ廃止アリタルトキ」として免訴の言渡をすべきであるとの論旨は理由がない。

よって旧刑訴第四四六条によって主文のとおり判決する。

右は裁判官井上登の論旨第三点に対する意見を除きその余は裁判官の一致した意見である。

論旨第三点に対する裁判官井上登の意見は同論旨に対する判断中に引用した大法廷判決に記載のとおりである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例